『吸血鬼と吸血鬼狩りの飽くなき戦い』

 新婚旅行でローザは、二人と一緒に避暑地である大きな湖に来ていた。

 

 湖畔には貴族たちの別荘が多くあり、商人たちも集まるため小洒落た街が栄えている。
 とはいえ、一周するのに一日はかかりそうな大きな湖なので、場所によっては静かな所もある。

 

 料理長に弁当を作ってもらい、大きなバスケットに詰めて馬車に乗った三人は、湖畔の大きな木の下で弁当を広げていた。
 木漏れ日がチラチラと差し込み、ローザの空色のドレスの上で光と影が躍る。
 キースは相変わらず黒一色に近い色味の服、ジェラールは濃紺のフロックコートを着ていた。

 

「美味いか? ローザ」
「はい。とっても美味しいです」

 

 バゲットの間に新鮮な野菜と、この一帯で有名らしい燻製のハムが挟まったサンドウィッチを囓り、ローザは幸せいっぱいに笑う。
 こんなにも美味な料理を、毎日困らずに食べられるというのは、本当にありがたい。

 

 けれど豪勢な食事を前にすると、どうしても孤児院時代を思い出してしまう。
 だからジェラールとの結婚後、この新婚旅行を終えたあとはすぐに、バダンテール侯爵夫人として、慈善活動を始めるつもりでいた。
 移動中からもその構想を話していたのだが、キースとジェラールに「あとでしっかり、ゆっくり聞くから、今は新婚旅行に集中してほしい」と言われてしまった。

 

 なので今は、しっかりまじめに新婚旅行を楽しむ気構えでいる。

「ここ、ソースがついていますよ」

 

 ジェラールが自分の口元をトントンと指でつついて示す。

 

「本当ですか? ありがとうございます」

 

 言われた所を指でちょいと拭ったが、指には何もつかない。

「こっちだ」

 

 するとキースがローザの口元をベロリと舐めた。

 

「ひゃ……っ」

 

 あと少し場所がずれれば、キスをされていたところだ。
 目をまん丸にして赤面するローザを見て、キースは意地悪にニヤリと笑う。

 

「……お前な」

 

 ジェラールがじっとりとした目でキースを睨む。

 

「何だ? 俺は〝食事〟をしただけだ。せっかく料理長が苦心して作ったソースだろう?」
「減らず口を……」

 

 苦々しい顔になるジェラールの膝を、ローザはポンポンと叩く。

 

「キース様はお気遣いをしてくださっただけですわ」
「あなたはこの男の下心をお分かりになっていない」
「まぁ、下心なんて言ってはいけません。キース様はジェラール様の口元にソースがついていても、優しく拭いてくださいます」

 

 ニッコリ笑ったローズの言葉を聞き、キースとジェラールは表情を凍り付かせて互いの顔を見た。
 ローズは手で拭う意味で言ったのだが、男二人は口元を舐められる想像をしただろう。

 

「失礼。ちょっと具合が……」

 

 ジェラールは想像しただけでも気分が悪いという表情で、横を向く。

 

「まぁ、それはいけません。どうぞ私の膝をお使いください」

 

 ローザはサンドウィッチを置き、自分の膝の上にハンカチを広げると、ジェラールに膝枕をする。

 

「あぁ……。これはいいですね」

 

 意外なところでいい思いをしたジェラールは、ご機嫌になりローザの腰に抱きつく。

 

「日差しが強いので、具合が悪くなったのかもしれませんね。まだ来たばかりですから、どうぞごゆっくり」

 

 それを見て面白くない顔をしたのは、キースだ。

 

「聖女様、では俺には祝福の口づけをくれ」
「え? …………む」

 

 ジェラールが膝の上で目を見開いている前で、キースは顔を傾けローザの唇を奪っていた。
 はむ、はむと彼女の唇を食み、啄んだあとに、軽く唇を噛む。
 キースが顔を離す頃には、唇を濡らしたローザはトロンとした顔をしていた。
 ボーッとしているローザの胸に、キースが手を伸ばす。

 

 フリルとレースたっぷりの胸元に手を差し込む彼を見て、ジェラールが黙っているはずがなかった。
 彼はゴロリと寝返りを打ち、ローザのドレスの裾から手を入れる。

 

「あ……っ、あの! お二人とも待ってください! 外ですよ?」

 

 泣きそうな顔でローザが懇願するが、二人はニヤリと笑うのみだ。

 

「この辺りはバダンテール家の私有地だと初めに言いましたよね?」
「あ……っ」
「お前の細い声なんて、どこにも聞こえやしないさ」

 

 キースも悪辣に笑い、ローザの乳首をクリンと転がす。

 

 結局、ローザはろくに食事を取れないまま、二人の〝食事〟となってしまうのだった。