『イケメンダメンズの優雅なるお茶会』

「陛下、よくいらっしゃいました」

 

 アイザックはエインズワース王国の首都エイシャルに訪れたランドルフを、自分のタウンハウスに招き入れた。
 傍らには右腕のリドリアもいて、大陸から訪れた皇帝に頭を下げている。

 

「変わりはないか?」
「はい。ステラとも上手くやれています」

 

 妻のステラと言えば、リドリアの妻のエリザベスと共に、ランドルフの妻であるマリアリーシャを接待し、王都で買い物をしているはずだ。
 彼女たちの微笑ましいやり取りを見たい気もするが、男同士でしかできない話もしておきたいところだ。

 

「リドリアも気苦労が多いだろう。今日はゆっくり同席してくれ」

 

 応接室に向かった三人は、執事が淹れた紅茶を飲み甘くないスパイスクッキーを摘まむ。

 

「エリザベスとは上手くやれているのか?」

 

 ランドルフに問われ、リドリアは苦笑いする。

 

「色々ありましたが、今は相思相愛になれています。閣下のお力添えもあり、本当にお陰様で……」

 何度も言葉を重ねるリドリアは、自分が妻と結婚するにあたって乗り越えてきた障害が多いと自覚しているのだろう。

 

「確かに話を聞いた時は呆れました……」

 

 アイザックがとても冷めた目でリドリアを見る。
 彼は上司の視線に耐えきれず、あらぬ方向を見て押し黙った。

 

「男子が好きな子に意地悪をしてしまうのは、よくある話じゃないか」
「思春期とはいえ、十四歳の男が女の子の股間を踏みますか」

 

 アイザックが眉間に皺を寄せ、溜め息をつく。
 ソファに座ったリドリアは思いきり横を向き、「その話は聞きたくないです……」と言わんばかりに絶望した顔をしていた。

 

「まぁ、どんなにできる男でも、好きな女性の前ではポンコツになるのは世界共通じゃないか?」

 

 何をやらせても完璧というランドルフが言うので、アイザックもリドリアも半信半疑という表情をしている。

 

「陛下がポンコツですって?」
「想像できませんが」

 

 スン、と真顔になった二人に向けて、ランドルフはいい笑顔で親指を立てた。

 

「俺は妻の膝枕でないと、昼寝ができなくなった」

 

 どーん、とそれは自慢げに言うので、二人の中にある完璧な皇帝のイメージが崩れかける。

 

「……いや、しかしそれは分かります。ステラの膝枕は何ものにも代えがたい」
「エルシーの膝枕も気持ちいい……」

 

 しばし、男三人は愛する妻の柔らかな太腿の感触を思いだし――、思いだし勃起をしそうになって咳払いをした。
 不自然なまでにタイミングを合わせ、三人はティーカップに手を伸ばしお茶を一口飲む。

 

「好きな女といると安らぎますよね……」

 

 リドリアが呟き、二人が深く頷く。

 

「うちのエルシー、妃殿下に失礼がなければいいですが」

 

 現在は女三人にルビー、その他護衛が付き添って王都で買い物をしているはずだが、公爵夫人のステラ、侯爵夫人のエリザベスが、皇妃であるマリアリーシャを上手く接待できているか心配のようだ。

 

「あいつ、そそっかしい所があるから……」

「義妹殿のシェリル嬢も同行しているから大丈夫だろう。彼女はしっかり者だろう?」

 

 アイザックに言われ、リドリアは頭を掻く。

 

「それはそうですが……。彼女は彼女でカイルの商売を手伝っているだけあって、商魂たくましいんですよ。逆に迷惑を掛けていないか……」

 

 リドリアが勝ち気な義妹を思い出して溜め息をつく。
 この男も大概、かつてはエリザベスに意地悪をしておきながら、弟を含めた家族、義理の家族に振り回されている。

 

「今日、カイルは?」

 

 アイザックに尋ねられ、リドリアは弟の予定を思い出す。

 

「今日は商談があると行っていましたが、そのあとは王都の一等地に作った店に顔を出す予定とか……。あ」

 

 全員、カイルがいる店にシェリルが三人を誘導する未来を予想した。

 

「愚弟が失礼を犯す前に、先回りしましょうか」
「それがいいな。ステラは口の上手い男に騙されやすいから」

 

 自分が今まで何度もステラを丸め込んだのを棚に上げ、アイザックが立ち上がる。

 

「せっかく羽を伸ばしてもらいたいと思ったのに、リドリアの弟とはいえ男と話させるために自由行動を許した訳ではない」

 

 口々に勝手な言い分を言い、三人は愛する妻を迎えに屋敷を出るのだった。