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 結奈が――おかしい。

 

 あれほど頻繁にあった連絡も、こなくなってしまった。

 

 要からメッセージを送っても、既読にならない。

 

 メールを送っても、電話をしても、彼女から反応はなかった。

 まさか病気か怪我でもしたのでは!? と慎子に連絡をすると、変わらず茶屋で働いているという。

 

 あれからもパパラッチにスクープされる事が何度かあった。結奈はそれで本当に怒ってしまったのだろうか?

 

 だが何かあれば結奈は溜め込む前に、自分に連絡する癖がついている。

 

 要がそう躾けた。

 であれば、何が問題なのか。

 

 考え込んだ挙げ句、要は柿崎に言ってなんとかスケジュールに都合をつけ、日本に行く事にした。

 

 結奈から離れた場所で一人悶々と悩むより、彼女に会って話をしたほうが早い。

 

 多忙な要が日本に迎えたのは、結奈の誕生日もすぎたクリスマスイブの日だった。


(……は?)

 

 東京の『浅葱茶屋』に向かい、要を迎えたのは赤い半襟に青紫の着物を着、白いエプロンをつけた〝いつもの結奈〟だ。

 

「いらっしゃいませ」

 

 だが彼女は要の顔を見ても何を反応するでなく、客の一人として扱って席まで導いた。

 

(連絡を無視していた事も含め、何かの遊びのつもりか?)

 

 そう思ってジッと結奈を見つめるが、彼女は店の説明をしたあと、戸惑ったように笑う。そのあと要の顔立ちを見て気付いたのか、英語で話しかけてきた。

 

『こちら、各国の言語対応のメニューになっております。浅葱茶屋が誇る庭園を見ながら、安らぎのひとときをお楽しみください』

 ペコリとお辞儀をし、結奈は忙しそうに去って行く。

 

「――結奈!」

 思わずその細い手首を掴むと、彼女は驚いて要を見て、むりやり手を振りほどく。

 

 強張った顔で要を凝視してから、ぎこちなく微笑み、「スタッフに触れるのはおやめください」と言って逃げるように去って行った。

 

(なん…………だ……)

 

 中腰だった要はゆっくりと赤い座布団の上に座り、レトロな木製のテーブルを凝視する。

 

(俺を……認識していない? 忘れた? いや、怒っている? 分からない……)

 

 頭の中は疑問符で満ち、シャーウッド家の跡継ぎともあろうものが酷く狼狽した。

 

 のろのろと結奈の方を見ると、彼女はレジに立っている若い男性――郁也に何かコソコソ話し、困った顔をしている。

 

 そんな彼女を見て、要は生まれて初めて結奈に対する苛立ちを覚えた。

(俺以外の男と、どうしてそんな近い場所で話しているんだ。なぜ俺を〝知らない男〟のように扱う。言いたい事があるなら、ハッキリ言えばいいだろう)

 要の胸中に怒りが渦巻くが、ひとまず抹茶と団子のセットを頼む事にした。

 

「すみません」と手を挙げると、結奈が戸惑いながらも近付いてくる。

「抹茶と三種の団子のセットをお願いします」

 

「畏まりました」

 ただのオーダーだと分かると、結奈は目に見えて安堵した顔をした。

 

 だがその手首を、要がまたしっかりと捉える。

 

「っ!」

 

 瞠目する結奈に、要は声の大きさを抑えて話しかけた。

 

「なぁ、結奈。俺は何か怒らせる事をしたか? 何か怒っているなら、無視をせずなんでも話してほしい」

 

「……仰っている意味が……分かりません」

 小さな声で返事をする結奈の目に、怯えが混じっている。

 

 今までだって結奈は悪戯半分に「要なんて知らない」と無視をする時もあった。

 

 だがその時は必ず、瞳の奥にからかうような色だったり、本気で怒っている時は苛立ちや怒りの色がハッキリ見えた。

 

 ――だが今はどうだろう。

 

 結奈の目に見えるのは、怯えと混乱のみだ。

 

「すみません。……どなたかとお間違えではありませんか? 私は……あなたを存じ上げませんし。きっと日本人ですから、似た顔立ちの誰かとお間違えなのだと思います」

 

 懸命に微笑む結奈は、沸き起こる恐怖を必死で耐えていた。

 

(ああ――。駄目だ。……今の結奈の中に、……俺は、…………いない?)

 

 要の心の中で何かが嫌な音をたてて軋み、大きくズレる感覚があった。

 

「…………すまない……」

 

 抜け殻のようになった要が手の力を緩めると、結奈はペコッと頭を下げて足早にテーブルを離れていった。

 抹茶と団子のセットを運んできたのは慎子だ。

 

 結奈に何があったか慎子に尋ねる事もできず、要は魂が抜けたかのように呆け、お茶と団子が冷めてゆくのを見守る。

 

 結奈が一生懸命茶道を頑張っていたのを思い出し、彼女が点てただろう抹茶は口にいれた。それを何杯かおかわりし、ただただ呆ける。

 どれぐらい時間が経ったのか、ポケットに入れていたスマホが震えた。

 

 のろのろとそれを手にすると、柿崎が東京にあるシャーウッド貿易会社での次の仕事を提示している。「用が終わったら、さっさと次の仕事をしてください」と冷徹な秘書が言っているのが目に浮かぶ。

 

(……何かの間違いかもしれない。また日を改めて来よう)

 

 すっかり冷めてしまった団子を口の中に入れ、要は伝票を掴んで立ち上がる。

 

 結奈がレジに立っていて、お互い何とも言えない表情のまま金を払った。

 ふと慎子なら事情を知っているのでは、と思い「茶屋の奥さんを呼んで頂けませんか?」と結奈に他人のように頼んだ。

 

 結奈は要が慎子と知り合いである事を知って、微かに瞠目する。それでも「お待ちください」と小さな声で告げ、バックヤードに入っていった。

 

「ルーサーさん、お久しぶりです。もうクリスマスなんて早いですね」

 

 慎子は変わらないまま――だが、どこか要に向かって遠慮がちな視線を送っている気がした。

 

「慎子さん、結奈が俺を無視するんですが」

 

 要が思い切って相談すると彼女は戸惑い、とても微妙な顔で笑った。

 

「さぁ……。結奈ちゃんを怒らせるようなこと、何かしませんでしたか?」

 

 それが分からないから、慎子に聞いているのだと苛立ちが加速する。

 

 まさか要は、結奈が自分をすっかり忘れていて、郁也が邦宏と慎子に「結奈は要の浮気が原因で婚約破棄した」と言っているなど思いもしない。

 

 その上で郁也が現在、〝結奈の婚約者〟として三輪山家に受け入れられている事も知るよしもない。

 

 だから慎子が要を〝海外を飛び回り、外国人セレブの女性と沢山浮き名を流した〟と思っているのも、当然知らない。

 

 自分が三輪山夫妻に「別れたあとも平気で結奈に会いに来てつきまとっている」と思われているのも考えない。

 まさに要は三輪山家の中で孤立無援だった。

 その日は漫然とせず『浅葱茶屋』を後にし、要はひとまず態勢を立て直す事にする。

 


 結奈を気にしたまま次の国に向かい、それでも要は何度も説明を求めるために結奈や三輪山夫婦に連絡をした。

 

 結奈とは相変わらず連絡がつかず、とうとう要の執拗さに折れた慎子から、衝撃的な事を告げられた。

『結奈ちゃんは〝婚約破棄した〟と言っています。今はうちの従業員の郁也くんと婚約しているようですし、あまりしつこくするのも結奈ちゃんの心象を悪くするんじゃないかしら……』

 

「何ですって!?」

 

 慎子の言葉を理解できない要は、驚愕したまま固まった。

 

(婚約破棄? ……どうして、なんで、いつのまにそんな事に……)

 

 同時に思い浮かぶのは、滝ノ瀬郁也といういつも結奈と一緒に働いている青年の顔だ。

 

 彼の失敗のせいで要は三千万円を三輪山夫婦に送金した。正直、目の上のこぶだ。まさかその男に、結奈をかすめ取られていたとは……。

 

 黙り込んだ要を、慎子が気遣う。

 

『私たちは特にルーサーさんを悪く思ったりなどしませんから、どうぞ安心してください。むしろルーサーさんは私たちを救ってくださった恩人ですもの。結奈ちゃんを支えてくださった恩人でもありますし、叶うならこれからもご縁があればいいと思っています』

 

 ――違う。そうじゃない。

 

 まったく噛み合わない情報に要は歯噛みし、低い声で告げた。

「次に日本へ行くのは来年のバレンタインぐらいに……と思っていましたが、予定を変更します。ニューイヤー前後の予定をすべてキャンセルし、そちらに向かいます」

 

『……分かりました』

 

 電話を切り、要はガンガンと痛む頭を押さえてソファに沈んだ。

 

「……どういう事だ……」

 


 結奈に会ってきちんと話せば事態は変わる。

 

 そう信じていたが、要の期待はあっけなく打ち砕かれた。

 

 結奈は明らかに要を見て怯え、機嫌取りのために立派な薔薇の花束を用意しても、叩き返されてしまう。

 

 さすがに要は大きなショックを受け、呆然としたまま『浅葱茶屋』をあとにした。

 

 どう考えても郁也が怪しいが、要が彼を糾弾しても何の証拠もなく、逆に要が悪役になりかねない。

「俺は……どうしたらいいんでしょうね」

 まだ結奈は茶屋で働いている時間、要は柿崎に用意してもらった立派な仏花を携え、結奈の両親の墓参りに来ていた。

 

 静まりかえった墓地には、年末のお参りに来ている家族づれが数組いる。

 

 毎年、毎回、ここには結奈と一緒に立っていたのに――。

 

「邦茂さん、茜さん。俺は本当に結奈が好きなんです。一生、彼女以外の女性を愛さないつもりです。心も体も、時間も財産も、人生すべてを捧げてもいい女性なのに、どうしてこうままならないんでしょうね」

 

 物言わぬ冷たい墓石に向かって、要は空虚な笑みを浮かべる。

 

「結奈が落ち着きを取り戻すのに二年かかったように、今回の〝異変〟が収まるのにも、時間がかかるかもしれません。……俺は結奈に関してだけ、気長なのだけが取り柄ですから」

 

 そう言うものの、要の目はとうに疲れ切っていた。

 

 ようやく二年かけて最悪の状態だった結奈を回復させ、手放しても大丈夫だと思えるほどになったのに――。

 ――まだこれ以上の試練があるのか。

 

 あまりに辛い現実を前に、要は妄想して逃避したいとすら思っていた。

 

(神は俺があまりに早く運命の人に出会ってしまったから、嫉妬して試練を課しているんだ)

 

 心の中で自分に〝言い訳〟を作った要は、ハァ……と白い息を吐き「結奈……」と遠くなってしまった婚約者の名を呼んだ。

**

 月日が経ち、要は完全に結奈を取り戻した。

 

 結奈が二十五歳になった年に神前式を挙げ、要は満足でならない。二人の親戚や友人たちを招いての披露宴は盛況に終わった。

 

 結婚式後にスマホが壊れるのではと言うほど、要のメッセージアプリは信じられない通知音を鳴らしていた。

 

「どこで出会った」から始まり、「あんな日本美人見た事がない」など。下世話なものでは「胸がでかくて羨ましい」から

 

「どんな風に過ごしているんだ」まで。

 

 少しうっとうしくて、要はしばらくの間スマホの電源をオフにしていた。

 結奈の荷物をロンドンの邸宅に送ったあと、一度彼は思い入れのある奥多摩の屋敷を訪れた。

 

 そこは一度失いかけた結奈を取り戻した、要の執念が実を結んだ場所だ。

「……ここだけは何があっても残して、大事にとっておく」

 

 ローベッドに眠る結奈を抱き、要は静寂に耳を済ましてそう呟いた。

 

 ジョン・アルクールの香水も、彼女に食べさせたシャンボン・エ・ウォールのチョコレートも、赤い毛糸のあやとりも、おはじきも、『赤とんぼ』の歌も、すべて結奈との思い出をなぞった。

 

 記憶を失った結奈に向かって「子供の頃からの知り合いで恋人だろう」と言っても、要をすっかり忘れている彼女を混乱させるしかない。

 

 だから要は時間をかけてじっくりと、五感と記憶が結びついている点に着眼し、結奈の記憶を刺激していった。

 

 最初は結奈が「誘拐された」と要を「犯罪者」「ストーカー」と言っても、仕方がない。

 

 都心から奥多摩まで結奈を移動させ、徒歩では絶対帰れない場所でひたすら昔のように愛し、思い出させる。

 

 それが結奈にとって苦痛にも近い快楽であろうと、体に刻まれた愛情は色あせる事はないと信じていた。

 

「……それでも、戻って来た。ずっと信じていた」

 

 また呟き、要は静かに眠る結奈の額にキスをする。

 

 明日の午後にはこの屋敷を出て、要と結奈は新婚旅行先であるカリブ海に行く。

 

 燦々と照りつける日差しを思い、要はうっすらと微笑み、結奈の香りを吸い込んだ。

**

「凄いね、要。海がどこまでも続いてる」

 

「そりゃそうだろう」

 

 結奈の子供のような感想に、要は快活に笑う。

 

 二人が乗っている豪華客船は、日本でも知られる世界的な五つ星ホテル、リッチ・カーライル・ヨットコレクションのスーパーラグジュアリークルーザーだ。

 

 結奈が名前を聞いて知っている〝豪華客船〟は、船客定員が大きいものだと五千人から六千人まである。

 

 だが要が選んだリッチ・カーライルの客船は船客定員が三百人以下で、船そのものも小さい。

 

 巨大なクルーザーもスイートルームに宿泊すれば贅沢な部屋に泊まれる。

 

 だが要が選んだのは地上のホテルと同等のサービスを受けられ、人もあまり混雑しない富裕層のためのクルーズ旅行だった。

 

 一般的な巨大客船にはショーが行われるホールがあったり、アイスリンクやカジノなどがあるのに比べ、二人が乗った船はそういうものがない。

 

 トレーニングジムやスパ、プールなどはあるが、あとは広々としたスイートルームに面積をかけている。

 結奈はカリブ海のエメラルドグリーンの海を眺め、ほう……と溜め息をつく。

 

 現在二人はオーナーズスイートのバルコニーにある、プライベートジェットバスに入っていた。

 

 目の前にはカラッと晴れた空と海があり、他に何もない。

 

 数日前まで奥多摩の、残暑の湿度がある屋敷にいたとは思えなかった。

「船底のマリーナテラスから海に入れるっていうのも、凄いね」

 

「結奈は『凄い』ばっかりだな?」

 

 要が水音を立てて手を出し、結奈の鼻先をちょいちょいとくすぐる。

 

「んふふ、だってこんな豪華な所に泊まったの、初めてだもん」

 

「……そうだな」

 結奈の言葉に、要は目を細める。

 

 本当ならあの二年間、結奈は要に連れられて世界中の高級ホテルを渡り歩き、星つきのレストランで食事をし、あらゆる国の夜景や観光地も見たはずだった。

 

 だが傷ついた結奈はあの二年間をほとんど覚えていない。

 

 要の事は思い出しても、病状が一番酷かった頃は、薬で朦朧としていてまともな記憶も残っていない。

 

 それでも要は「構わない」と言うのだろう。

 

 二人の時間は再び動き出したばかりで、結婚したいま結奈は要の妻となり、またどこへだって行ける。

 

 今度こそ、心身共に健康な状態で要との思い出を共有していくのだ。

「連れてきてくれて、ありがとう」

 謝る言葉は、もう喉が嗄れるほど言い尽くした。

 

 後悔と申し訳なさのどん底までいった結奈が得たものは、「あとは要に感謝し、彼の幸せを一緒に作っていく事だ」という前向きな気持ちだ。

 

「どういたしまして」

 

 結奈の礼に要は微笑み、軽く唇を重ねる。

 

「ん……。……ん、ふ」

 

 ちゅ、ちゅ、と何度か可愛らしく唇をついばまれ、結奈は幸せそうに笑う。

 

 要の大きな手は結奈の乳房を揉み、早くもコリコリと先端を尖らそうとしている。

「もぉ……。コラ、駄目。さっきも沢山したから、今お風呂に入ってるんでしょう?」

 

「新婚旅行だからいいんだよ」

 クルーズ初日の夜にたくさん要に貪られ、二日目も朝食後にベッドにもつれ込み、昼食すら忘れて交じり合った。

 

 結奈が空腹を訴えて、ようやく風呂のあとに食事の予定を入れた。

 

 ベッドルームのキングサイズのベッドは生々しく乱れたままで、ルームキーパーにベッドメイクを頼むのも恥ずかしい。

 

 要は後ろから結奈を包む込んで抱き、水面に浮く白い乳房を揉みしだく。

 

「ぁ……、ン。……もぉ、……かなめ……」

 

 今度は首筋にねっとりと舌を這わされ、結奈の花芯がひくつく。

 

 誘われたかのように長い指が蜜口に吸い込まれ、すぐに結奈が感じる場所を探り当てた。

「あん……ぁ、ン……ぁあ……」

 仔猫の顎をくすぐるように、指先が小さく動いて結奈をいたぶる。

 

 吐息が震え、結奈はいつのまにか要に抱えられたまま体を丸めていた。

「こら、やりにくい」

 

「あんっ」

 

 だが要にグイッと胸を反らされ、背後から求めてくる唇にキスを奪われた。

 

「ん……、んぅ……ン」

 

 舌が絡まり合い、結奈の頭の中がすぐに甘ったるい靄に包まれてゆく。

 

 先ほどまでの交わりですでに柔らかくなっていた部分は、要の指ですぐに解され、繊細な快楽を結奈に伝えてゆく。

「ン……あ、あ……っ、そこ……、ぁ」

 

「ココだけじゃないだろ? ココも、だろ?」

 愉悦の籠もった声と同時に、要の別の指が結奈の肉芽を奏でた。

 

「っああぁあぁっ!」

 

 辛うじて均衡を保っていた理性が崩れた声をさせ、結奈が体を揺すり立てる。

 

「やぁ……っ、だめっ」

 

 そこから先は、二人の争いへと発展していった。

 

 結奈が要の魔手から逃げだそうとし、湯船の縁ですぐ追いつかれる。

 

「あっ」と情けない悲鳴を上げた時には、既にいきり立ったモノをヌルヌルと秘唇に擦りつけられた。

「だめぇ……っ、だめっ……たらっ」

 

「何がダメなんだ? 感じて堪らないくせに。嘘つき」

 

「ン……っ」

 

 耳元で「嘘つき」と言われ、情欲を隠さない低音に子宮が震える。

「アア……ぁ」

 

「ホラ、先っぽが入ったぞ。どうする? 欲しくないのか?」

 お湯の中で要の亀頭が結奈の蜜口を擦り、ツンツンとつついては浅く入りすぐに出てしまう。

 

 悩ましく腰をくねらせ何とか逃げようとする結奈は、必死に脳内で〝理由〟を探していた。

 

(えっと……どうして、ダメなんだっけ……)

 

 考えても〝理由〟が出てこない。

 

 懸命に考えようとしているのに、クポクポと入り口付近を前後されて、体がはしたなく疼いてしまう。

 

「あん……っ、だ、……めっ」

 

 最後の力を振り絞って要を振り払い、結奈はジェットバスから上がってよたよたと全裸のままバルコニーを歩いた。

 

 バスタオルが掛けられてあるデッキチェアまで辿り着いたところで――、夫に捕まった。

 

 白いバスタオルが陽光を反射して翻り、デッキチェアの上に広げられる。その上に二人が重なり合って倒れ込んだ。

 

「あぁあああ……っ、んっ」

 

 問答無用で脚を広げられ、そこに生身の要がズブゥッと入り込む。

 

 甘く濡れた場所で彼を迎え入れた結奈は、ヒクヒクッと腰を震わせて達してしまった。

 

「やらしい妻だな」

 

 要はゆるゆると腰を前後させ、ぐちゅりと結奈のナカを掻き混ぜて艶然と笑う。

 

「ン……、ん……、ぃ……じ、わる」

 

「結奈が可愛いのが悪い」

 

 チュッチュッと愛しげにキスをされたあと、鼻先まで囓られた。

 

「んもぉ……」

 

 むくれた結奈の乳房を揉み、左右から集めた柔らかな肉にもキスをされる。

 

 その要の顔がとても嬉しそうで愛しそうなので、結奈は抵抗する気持ちも失ってしまった。

「ねぇ」

 

「ん?」

 

 呼びかけると、この世にたった一人しかいないのではないだろうかとすら思う、美しいアメジスト色の瞳が結奈を見る。

 

「好きだよ」

 

「俺は愛してる」

 

 上をいこうとする返答に、結奈はクシャッと笑って抱きついた。

 

「ずるい! 私も!」

 

 ぎゅーっと要の首筋に抱きつき、潮風を肺一杯吸い込み、ホ……と本音を漏らす。

 

「結婚してくれてありがとう。私をずっと好きでいてくれて、ありがとう」

 心からの告白に、要はゆっくり顔を離すと愛しげに微笑んだ。

「一生離さないから、覚悟しておけ」

 

「一生離れないよ。どこまでも一緒」

 目を閉じると要がキスをしてくれ、やがて彼の腰が本格的に動き始めた。

 

 グチュッグチュッと激しい水音をたてて二人の腰がぶつかり、要の熱杭が結奈のとろけきった蜜壷を掻き回す。

 

 弱い場所を執拗に先端で突き、捏ね、甘い声をもっと聞かせろと暴れ回る。

 

「あぁあ……っ、ン、あぁ、かな、め、かなめ……っ」

 

 溶けそうになった脳で愛しい人の名前をひたすらに繰り返す。

 

 こんな美しくて優しい人が、子供の頃から自分だけを見ていてくれただなんて奇跡のようだ。

 

 小さな自分が彼に何をしてあげられたか分からないが、縁という奇跡に感謝する。

 

「結奈の声は……っ、腰にクる……」

 

 腰が止まらないというように要が言い、とろけた、気持ちよさそうな顔で何度も結奈を突き上げた。

 

「んン、ん、うーっ、ぁ、きも、ち、ぃ……っい」

 グズグズにになった声で結奈は喘ぎ、要の腰に脚を絡ませて懸命に彼に応えた。

 

 バルコニーの向こうには一面のカリブ海で、その開放感に二人は悲しい過去や郁也に掻き回された日々を忘れ、喘ぎ狂う。

 

 潮騒に交じり、ブチュブチュと泡立った音と二人の荒い呼吸音が聞こえる。

 

 結奈は大きな乳房を揺らし、涎を垂らして悶え抜いていた。

「んーっ、ぁ、かなめ、かなめぇ……っあ、すき、すきぃっ、な、の……っ」

 

「俺も……っ、ン、ぁ、愛、してる……っ」

 情欲に濡れた二人の目が交差し、どちらからともなく舌を出し深く淫らなキスをした。

 

 舌を絡ませ唾液を交換し、同時に要の屹立が結奈の体内で膨れ上がり、ドプドプと濃厚な精液を吐き出してゆく。

 

「ん……、ン……、ふ、ぅ……っ、ン……」

 

 荒い呼吸を繰り返し、息継ぎをしてはまたキスをする。

 

 たっぷり一分ほどくちづけを交わしたあと、要は結奈の谷間に顔を埋めた。

 

 愛しい人の重みを体に感じ、汗だくになった結奈は要の頭を撫でる。

 

「……いつまでも、こうしていたいね」

 

 船上の旅は一週間ほどを予定しており、それが終われば一度ロンドンに行って要の周囲にいる人々への挨拶がある。

 

「……ハネムーンはいつか終わってしまうが、俺たちはこれからずっと一緒だ」

 

「ん……」

 

「仕事が終わったら結奈に会えるし、結奈も『お帰り』と言ってくれるんだろう?」

 

「もちろん」

 

「いつか子供もできるだろうけど……。今は結奈を独り占めさせてくれ」

 要がゆっくりと屹立を引き抜き、柔らかくなった蜜口から愛蜜と白濁がゆっくりと糸を引く。

 

 彼は結奈の肌に触れ、少し湯冷めしているのを知って彼女を抱き上げた。

「もう一度風呂に入ろう。今度は手を出さない。いい加減腹も減ったし」

 

「ん、そうだね。お腹ペコペコ」

 ボコボコと水面を泡立たせているジェットバスに再び入り、結奈は「気持ちいい」と目を細める。

 

 そんな彼女を見て要は愛しげに目を細め、食事が終わったらまた妻を貪ることを考えていた。

 

 六歳の時に見初めた生涯の花嫁を腕に抱き、英国貴族の御曹司はすべてを手にした覇者の笑みを浮かべるのだった。

 

 

                                                                              完  

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